奈良・松柏美術館で静かな時間を|文化勲章三代の系譜と春の庭園、西大寺へ続く半日旅
静かな春の日、奈良・登美ヶ丘にある松柏美術館を訪ねてきました。
上村松園・松篁・淳之――三代にわたって文化勲章を受章した一家の作品が並ぶ館内は、控えめながらも凛とした空気に包まれています。
桜が咲き始めた庭園では、ほとんど人に出会うこともなく、まるで時間が止まったようなひとときに。
記事の後半では、近くの「西大寺」にも足を延ばしてご紹介しています。
一人で静かに美術を味わいたい方におすすめの、半日コースです。
はじめに|春の松柏美術館
今回、松柏美術館を訪れるきっかけになったのは、ひょんなことから手にした招待券でした。場所は奈良市の住宅地の一角。以前訪れたのは15年以上前のことです。あの時の静かな記憶がよみがえり、少し遠いですが桜満開のこの季節にもう一度行ってみたいなと思ったんです。
もともと美術館へは一人で行くことが多いのですが、この松柏美術館はアクセスが少々不便。でも、そのぶん静かにゆっくり過ごす場所としてはぴったりでした。観光地として名が知れているわけではなく、美術好きの方以外にはあまり知られていない、そんな控えめな美術館です。
そして、今回は「松柏美術館」を訪ね、その足で「西大寺」にも立ち寄りました。公共交通だけで無理なく回れるルートです。女性のひとり旅でも安心して楽しめます。今回はそんな体験をご紹介します。
松柏美術館の基本情報
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名称:松柏美術館
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開館時間:10:00〜17:00(入館は16:00まで)
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休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始、展示替期間、その他必要のある場合
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入館料:通常料金:大人(高校生・大学生を含む)820円、小学生・中学生410円
現在開催中の企画展:「上村三代の恩師たち」展(2025年2月15日〜4月13日)は大人1,100円/小学生・中学生550円
※特別展・企画展は別料金(詳細は要問い合わせ)
展覧会の内容と感想
今回の展示は、2025年2月15日(土)〜4月13日(日)開催の特別展「上村三代の恩師たち」。
上村松園、松篁、淳之の三代が、それぞれに影響を受けた恩師たちとの関係を紐解く展覧会です。
彼らが語った忘れられないことばや思い出とともに、他館から借用された作品群が展示されています。
※徳岡神泉「池」(京都国立近代美術館蔵)は3月18日〜4月13日限定で展示。
展示を見てまず驚いたのは、上村三代すべてが文化勲章を受章していたことです。それぞれの恩師も、そうそうたる顔ぶれでした。竹内栖鳳、菊池契月、福田平八郎、小野竹喬など、名前を見ただけで圧倒されるような日本画家たちです。各作家の作品が約2点ずつほど展示されていました。ただ、どれも他館からの借用で、京都国立近代美術館や京都市美術館の所蔵が中心。普段からこうした美術館に通っている方には見覚えがある作品があるかもしれません。
また、初めて行く方は上村松園の作品を目当てに訪れることが多いと思います。その場合、やや物足りなさを感じるかもしれません。というのも、展示されていたのは本画2点のみで、残りは下絵(11点程度)や模写が数点展示されていました。期待が大きい分、肩透かしを感じる可能性があります。絵を描いている人にとっては貴重な資料かもしれませんが、そうでない方にとっては少し物足りなく感じられるかもしれません。
その2点、「花見」と「花がたみ」は、松柏美術館所蔵の名品。特に「花がたみ」は能楽『花筐』を題材とした作品です。以前に何度も見たことがありますが、それでもやはり圧巻です。大きな画面に描かれた女性の姿は、一目で“正気ではない”と感じさせるほどの表現力があります。その迫力には毎回驚かされます。狂気をはらみつつも、美しさと静けさが同居しており、何度見ても心に残る一枚です。
また、上村松篁の作品は6点ほど展示されており、こちらはすべて松柏美術館所蔵。日本画らしい品格と緻密な筆致が楽しめました。
※館内は撮影不可のため、展示風景の写真はありません。
館内設備と庭園のこと
美術館によくあるコインロッカーは見当たりませんでした。ただ、大きな荷物があれば受付で預かってもらえると思います。展示室の規模を考えると、コインロッカーがなくても困ることは少ないと思います。トイレは地下1階に。ミュージアムショップの隣です。きれいなトイレで和式・洋式どちらもあり。清潔感があり、ゆったり使えました。
展示室の外には、少し腰かけて余韻にひたれるスペースもあります。混雑もなく静かな空気が流れていました。
また、美術館の庭はとても落ち着いた雰囲気で、訪れた日は晴れた青空に桜がとても綺麗に咲いていました。ほとんど人がおらず、まるで独り占めしているような空間を満喫しました。落ち着いた時間をゆっくり過ごしたい方は館内を観覧したあと、ぜひ庭にも足を運んでみてください。春や秋のような気候の良い季節は特におすすめです。
ちなみに、かつては美術館のすぐ近くに「旧佐伯邸 喫茶處(伯泉亭)」がありましたが、令和6年(2024年)12月28日をもって営業終了とのこと。美術館の風景とともに楽しめる貴重な空間だっただけに、閉店は少し残念でした。
おわりに|静かな時間を過ごしたい日に
奈良・登美ヶ丘にある松柏美術館は、少し足を延ばす価値のある静かな美術館です。展示の内容に強い期待をかけすぎると拍子抜けするかもしれませんが、文化勲章三代の作品やその背景にあるつながりを感じるには十分。
桜の咲く庭を独り占めできたような贅沢な時間と、混雑のない展示空間は、やはりここならではの魅力だと感じました。忙しい日常の合間に、ほんの少し静けさを取り戻したくなった時には、松柏美術館のことを思い出してみてください。そんな気持ちにそっと寄り添ってくれる場所かもしれません。
このあと、近鉄電車でふた駅移動して訪れた「西大寺」の様子を、次の記事でご紹介しています。静かな美術館時間の余韻を持ちながら、もう少しだけ奈良を歩いてみました。